自分の荷物は難なくかき集めて台車に乗せたが、しかし彼ら3人のスーツケースはいっこうに同じターンテーブルに見えてこない。動きはじめて15分ほど経っただろうか。すでに幾周か巡っているものが「ほら、またあれ」と目に止まりはじめても、彼らの荷物は姿を現さない。さすがにこれはちょっとおかしい、とイヤな予感がしていると、まず、すでに原型をとどめていないスーツケースがひとつ、地上スタッフの運ぶ台車に乗ってやってくる。いやはやなんとも無様ななれの果てというか、あちこちを破損している持ち主のクラリネット奏者は目を見開き口も開いている。「誠に申し訳ないのですが、このような状態で届いています。同じタイプのものを持ち合わせているわけではありませんが、弊社仕様のものでよろしければ新しいものとお取り替えいただけます。」楽器はもちろん手運びであり、その他内部に破損したものがなかったこともあり、しかも真新しいスーツケースとの交換ができるとあって、最初のショックがかなりリラックスした表情に変わってくれたことにはやや安心した。そして第二の啓示である。
別の地上スタッフがやってきて、「お客様のギターですが到着便に乗り遅れており、次便にて本日の夕刻、羽田への到着を予定しております。」と。
これにはさすがにまいった。
しっかりと梱包されたギターは、航空会社への事前の交渉により特別な受諾手荷物としてミラノ出発時に預けてあった。しかし、お伝えしたように出発便の急なキャンセルと他エア会社への変更、フランクフルトへの到着遅延など不安材料がないわけではなかった。しかしフランクフルト空港での朝のチェックイン時に、「別途、預けてあるギターですが、我々の出発便に積み込まれていますね。」と確認をとり、「それは間違いありません。」と日本人スタッフより返事をもらっていたのである。
我々の到着はすでに一日遅れており、このまま豊橋に移動したらそのままリハーサルしなければならない。ただいま午前10時、何ができるかを考える。
まず、豊橋に連絡を取りリハ用のギターをどこからか借りてくることはできないかを問い、そこは何とかクリアすることができた。しかし夕刻に羽田に着くであろうギターを豊橋まで運ぶ手段を考えなければならない。航空会社いわく提携する運送会社に委ねると最速でも明後日の到着という。すでに最初のコンサートは終わってしまっている。それでは航空会社のスタッフに個人的に運んでもらえないかと問うと、規定にないことはできないという。それにはやはり腹立たしく、多少感情的にもなり交渉をつづけたが埒は開かない。無駄な時間をこれ以上費やすわけにもいかず、昨春より東京に就職している娘に可能性を訊いてみる。その日はちょうどオフ日であるために、自分が羽田に立ち寄りピックアップしながら豊橋まで届けてくれる、という。ギター奏者のスーツケースは遅れながらも届いており、これで完全に雲は晴れたかなと一瞬だが脱力している。
ところがそのような交渉をしている間にもリーダー(フルート奏者)のスーツケースは出てこないし、情報すら何ひとつ入ってこない。どこにあるのかもわからないのである。そしてそのスーツケースが届くのはその交渉より5日経った、鹿児島でのコンサートを前にしたタイミングであった。
堂満尚樹(音楽ライター)
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2023年バイロイト音楽祭
《ニーベルングの指環》鑑賞ツアー10日間実施について
<2023年7月24日~8月2日>
2020年に新型コロナウィルス感染拡大の影響で催行中止となったバイロイト音楽祭《ニーベルングの指環》鑑賞ツアーのお知らせです。
期間は10日間で、2023年7月24日~8月2日までの第1チクルスと、《タンホイザー》や新制作《パルジファル》も期間中に鑑賞が可能です。
ツアーは催行決定、添乗員も同行します。受付は2月末までの予定です。
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